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マサキルリマダラとホリシャルリマダラ

マサキルリマダラ(Euploea tulliolus)は、2つの和名を持つ代表的な蝶です。マサキルリマダラはフィリピン亜種(ssp. pollita)を指す和名、ホリシャルリマダラは台湾亜種(ssp. koxinga)を指す和名ということになっています。


与那国島真嘉新川線 2025年7月14日 青木一宰採集
与那国島真嘉新川線 2025年7月14日 青木一宰採集

古い時代には、後者をヒメマルバネムラサキマダラ、ヒメマルバネルリマダラと呼んでいたこともあり、この異名は異名として平山修次郎の『蝶類圖譜(1939年)』に載っています。ではいつまでそう呼んでいたのでしょう? 山川黙の『蝶類圖(1929年)』にも異名としてヒメマルバネルリマダラが載っていて、これら2冊を見ると、ホリシャルリマダラは Euploea koxinga となっているので、独立種という扱いであったことがわかります。これより古い文献を所持していないので、いつ頃和名がホリシャルリマダラに切り替わったのかわかりません。松村松年あたりがアヤシイような気がしていますが、どうなんでしょう。



一方、マサキルリマダラは、1935年に正木任氏が石垣島で採集した標本を、江崎悌三・野村健一が新亜種として1937年に記載した際、八重山亜種(ssp. masakii)を指す和名をマサキルリマダラとしたものです。ここでは、「Euploea koxinga Fruhstorfer ホリシャルリマダラも恐らく mazares の1亜種と認めるのが至当ではないかと思ふ」としています。




1955年に刊行された『原色台湾蝶類大図鑑(白水隆)』では、Euploea tulliolus koxinga と処置してありますが、和名はホリシャルリマダラとなっています。

その後、その白水隆は『学研中高生図鑑(1975年)』ではマサキルリマダラとしていますが、解説文中では台湾産の亜種(ホリシャルリマダラ)と書き、和名を2つ使っており、混線しています。これは当時の記録では、八重山において圧倒的にフィリピン亜種が記録され、台湾亜種は1例しか無かったことに起因すると僕は考えています。

蝶研出版から出された『沖縄・八重山蝶採集ガイド(1985年)』には、マサキ(ホリシャ)ルリマダラとなっています。図版は台湾亜種になっていて、出版された前後に台湾亜種の採集例が増えたのかもしれません。



猪俣敏男の『大図録・日本の蝶(1986年)』では和名の命名についても言及していますが、本種についてはマサキルリマダラとしてあり、ホリシャルリマダラについては述べられていません。

松香宏隆のカラーハンドブック『蝶(1994年)』、PHP研究所の出版ですが、これにもマサキルリマダラとあり、ホリシャルリマダラについては異名となっています。

その後の白水隆の『日本産蝶類標準図鑑(2006年)』でも詳らかに記されてはないが、和名=マサキルリマダラという扱いです。

菅原春良・髙橋直の『日本の迷蝶大図鑑(2014年)』では同じく和名=マサキルリマダラとしながら、解説文中では「ホリシャルリマダラの和名も持つが、これは台湾亜種を指しておりフィリピン亜種には使わない」と記し、正直もやもやします。


種が統合された時点で、和名をマサキルリマダラにしながらも、台湾亜種はホリシャルリマダラと拘泥した人がいたのかもしれません。

だから、僕自身も会話ではホリシャルリマダラを使ってしまうこともありますが、文字で残す時にはマサキルリマダラを意識して使うようにしています。しかし、いずれにしてももやもやしてしまいますね。ちなみに、フィリピン亜種を採集したことはありません。一度目撃しただけです。


この件、詳しい方がいらしたら、ぜひ教えてきたいただきたいものだし、ご意見も聞きたいところです。

 
 
 

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